あるリハビリ病棟では、患者は全員デイルームに集まって食事をしているそうだ。ある日の昼食時、高齢の女性患者が看護師を呼び止めこう言った。
「このミカン、また後で食べたいから部屋に持って帰っていい?」
その患者は食欲が無く、いつも出された食事の半分ほどしか食べられない人だったそうだ。デイルームでは昼食を食べ終わった患者さんたちが次々と病室に帰っていく中、自分も早く切り上げなければ後片付けに支障を来すのでは、とも考えたのだろう。焦るよりも時間をかけて、少しでも食べたいという思いでその食べかけのミカンを病室に持って帰ろうとしていたのだ。
衛生面の問題から、基本的に食事は食事時間のうちにデイルーム内で食べることが決まりになっていた。だが、この患者の場合は特例になるのではないかと考えた看護師はリーダー看護師に相談した。しかし、リーダー看護師は頷かなかった。
「ここで食べるなら良いけれど、部屋に持って行くのはダメだ」
と患者に強い口調で説明した。
患者は「わかりました」と悲しげにミカンを置き、病室へ帰って行った。
リーダー看護師の考え方は、病棟の決まりを守るという意味で間違っていないかもしれない。たしかに持ち帰りを一人に許してしまえば、他の人にも許可しなければならなくなる。しかし、この件が特例であるという看護師の考えや、少しでも食べる量が増やせるようにしたい患者の思いは間違っていたのだろうか?これはきっと、考えても絶対に正解が見えない問題なのかもしれない。
看護師同士がお互いに価値観の違いを認識し合い、患者にとって最善の手段をとれるのが言うまでもなくベストなのだろう。
看護師同士の価値観についてはこちらのサイトで取り上げられているので、興味があれば見てみるといいだろう→【参考サイト:http://diversevalues.com】